ポケモン草創期から続いた「ギエピー」、ついに終わる?
ギエピー。人は穴久保幸作版ポケットモンスターのことをそう呼ぶ。
この作品も、今月のコロコロコミックで23年間の歴史に幕を降ろす時が来たようだ。
今回は、そのギエピーがいかに尖った漫画だったか、初期の頃を振り返ってみたい。
ギエピーとは?
正式名称は「ポケットモンスター」だが、ゲームやアニメと区別するために「ギエピー」と呼ばれている。
ギエピーとは1996年、ポケモン赤緑の発売から半月後、アニメが始まる1年前から続いたポケモンコミック作品で、コロコロコミックに連載されていた。
大胆にデフォルメされたピッピが主人公だ。
コロコロコミックは、当時から小学生男子に強い影響力を持っていた雑誌である。ネットが普及していない時代だったから、今よりさらに拡散力・宣伝効果は高かったはずだ。
だからギエピーがポケモン黎明期に、ポケモンの知名度を子供たちに広めた功績は計り知れない。
ギエピーの特徴と由来
まだポケモン世界がぼんやりしていた初期に始まっただけあって、固定観念に囚われない漫画であった。
この漫画は男子小学生以外の読者を想定しておらず、下品でクセが強い。
後に始まったアニメ、あるいはポケスペなど他のメディア作品とは一線を画した。そのため、いつしか「ギエピー」と呼ばれるようになった。
主人公の相棒ピッピが、お調子者のトラブルメーカーで、いつもひどい目にあう。その時によく「ギエピー」という悲鳴をあげることから、この作品は「ギエピー」と呼ばれるようになった。公式までもそう呼んでいる。
なお初期の頃は「ぎぇピー!!」という表記が多かった。
コロコロコミック公式:https://corocoro.jp/75766/
その作風は、男子小学生向けのナンセンス・ハイテンションギャグがメイン。アニメのように幅広い年齢層へのウケなどは微塵も考えていないのが特徴だ。
ギエピー、ポケモン初期ならではのおかしな点
それでは、ギエピーの初期の頃、穴久保先生がポケモン黎明期に成し遂げた伝説の数々を振り返っていきたい……。
世界観がカオス
まずこちらの資料を見て、初期の手探り感のすさまじさを読み取って欲しい。
引用元:「ポケットモンスター」1巻 7P
記念すべき本編最初のコマである。ツッコミ所しかない。
左上にマサラタウンの文字がなかったら、ポケモン漫画の一コマだと信じることは誰にも不可能だ。
マサラタウンが"南国"というのも衝撃だ。 空には宇宙船のようなものも飛んでいるし、近未来的な建物や車も。
ストリートミュージシャンの横に”らびっと”と書かれているのは保育園か何かだろうか?
とにかくカオスだ。
もちろん、このコマの設定や描写は、この後全てなかったことにされている。
手持ちポケモンを、モンスターボールに入れない
それがどうしたの?と思うかもしれないが、当時は画期的だった。
なんせ、アニメのピカチュウが出る1年も前だったからね。
穴久保先生は、ポケモンと人間を主従関係ではなく、対等な友達や仲間と見なしていたのだ。
ほとんどのポケモンが喋る
他のポケモンメディア作品とギエピーが大きく異なる点だ。
たとえばアニメ版では、ロケット団のニャースや伝説のポケモンなど、限られたポケモンだけが人語を話す。
しかしギエピーの場合は、ピッピをはじめ、そこら辺の野生ポケモンでも口汚く人語を操る。
逆にピカチュウは、何故かアニメ同様に人語を話せない。アニメより先に始まった作品なので、アニメを意識したわけでもない。
穴久保先生には、不思議な先見の明があったと感じさせることがある。
とにかく下品
ギエピーは小学生男子向け漫画にありがちな、下品なナンセンスギャグが売りの漫画である。
ピカチュウですら、初期は所かまわずう〇ちを垂れ流すギャグをする困った子だった。(この描写は登場後2回だけで、すぐに真面目キャラになる)
レッドはモンスターボールを自分のきんのたまと間違えるし、ピッピは目を離すとすぐ立ちションやオナラをする厄介なヤツだ。
ポケモンのことを「モンスター」と呼んでいた。
本当に最初の頃だけだったが、かなり違和感がある描写だ。
しかもレッドがそう呼んでいただけではなく、ポケモン達が自称していたのだ。
「ポケモン」という言葉には何となく優しさを感じるが、「モンスター」という言葉の響きには恐ろしさ・敵をイメージするね。
レッドの本名が赤井勇
ほとんど死に設定ではあるが、ギエピーのレッドはニックネームで、赤井勇(あかい いさむ)という本名があった。
グリーンも、本名は緑川開(みどりかわ かい)という。
なお、ポケスペやピカブイのブルーとは似ても似つかぬ穴久保版ブルー(引きこもりのオタク男子)が登場するが、こいつは本名だと思われる。彼の両親も彼のことをブルーと呼んでいるからだ。
トキワの森にミュウツーが出現
初期の手探り感のすさまじさを感じられる描写、その2。
引用元:「ポケットモンスター」1巻 35P
2話にて、トキワの森に突如としてミュウツーらしきポケモンが登場した。
同話では他にも、三つ目のペルシアン、クラゲのような足の生えたディグダなど奇妙なパチモンがいた。
「キン肉マン」の、七人の悪魔超人の登場シーンを彷彿とさせる。
一説によると、穴久保先生はろくに資料ももらっていなかったらしい。
このシーンは、「コロコロアニキ」で自らネタにしている。
なおこのミュウツー、よほど低レベルなのか、ピッピが技を使えるだけで驚いている。トキワの森でミュウツーなど存在自体がバグみたいなものだから、技を覚えていないのかもしれない。
なお、この話は後の真ミュウツー登場回では「無かったこと」になっているが、その回でも新たなる伝説を生み出すことになる。
詳細は後述。
ポケモンセンターの担当がおじさん
ポケセンといえば女医のジョーイさん、そんなアニメの常識など存在しなかった。
ハゲで鼻からヒゲを生やした怪しいおじさんが「ほんの十ボルトの電流で一瞬のうちに治りますよ……」
と謎理論で治療してくれる。
グリーンも男性ジムリーダーも悪人だらけ
ギエピーの世界では、何も悪人はロケット団ばかりではない。穴久保先生は、基本的に男性キャラを悪人として描いている。
- グリーンは、強欲でレッドに意地悪と自慢ばかりしてる嫌な奴。
- タケシは、勝った相手からポケモンを強奪してコレクションする男。
- マチスは、日本のポケモンを乱獲する困ったアメリカ人。
- キョウは、ラッキーを奴隷のように強制労働させて、見世物小屋で儲ける元締め。
- カツラは、偽のラーメン屋経営と、ポケモンの強奪。
- サカキは、なんと兄弟で2人いる設定で、カジノやホテル、ブラック企業などを経営している。
女性ジムリーダーはそこそこ優遇
一方で、女性キャラはかなり優遇している。初期はレギュラーはいなかったものの、それぞれが作者の好みにアレンジされた形だ。
- カスミは、登場時こそ影が薄かったものの、後に様々なイベントで司会役を任される。
- エリカは、シルフカンパニー編でルパン3世のゲストヒロインのような立場になった。
- ナツメは、ミステリアスさが強調され、ちょっとケバめになっていたが、多分作者の好みなのだろう。
- カンナは、女性教師になった。(見た目は学級委員長風)
- キクコに至っては若い姿で登場し、ポケモンに変身できる魔法使いという設定だった。
好きなタイミングで進化・退化できる
これもまたぶっ飛んだ設定であるが、登場するポケモンの多くが好きなタイミングで進化、そして退化している。
グリーンのヒトカゲなんか、リザードンにワープ進化したかと思えば、次の回以降ではヒトカゲに戻っている。
他にもマチスのビリリダマ→マルマイン、野生のゴーリキー→カイリキーなど、イーブイに至っては、石さえあれば、どの姿にも自由に進化できる。
ちなみに、ピッピとピカチュウも、一度だけピクシーとライチュウに進化した。
ポケモンも悪事を働く
人間がどんなに外道だらけでも、ポケモン達だけは純粋な心を持っている。ポケモンが悪さをするのはトレーナーが悪いから。
なんて考えはギエピーでは幻想だった。
引用元:「ポケットモンスター」2巻 8P
デパート強盗をする野生のゴーリキー達が登場する。さながら「グランド・セフト・オート」だ。
子供の教育に優しいポケモンのイメージにそぐわない悪党っぷりで、ちょっと痛快ですらある。
レッドの表情も、負けず劣らずの「ワル」だし。
マサキの奥さんがミュウ
なにを言っているのかわからないと思うが、事実である。
ギエピーのマサキは、「鋼の錬金術士」のタッカーのように、人間とポケモンを合成させるマッドサイエンティストだった。
そしてあろうことか、自分と奥さんを実験台にして元に戻れなくなってしまったのだ。
その際、奥さんは見た目がミュウになり、マサキはドラクエに出てきそうなオリジナルモンスターに変貌した。
引用元:「ポケットモンスター」1巻 109P
しかしギャグ漫画ゆえ、ニーナとアレキサンダーのようにはならず、無事に夫婦揃って人間に戻ることができた。
その際、人間に戻った奥さんは美人だという描写があるが、正直、ミュウになっていた方が好みだった。これで全国の何人がポケモナー、あるいは異種融合に目覚めたのだろう。グリーンが無理やりゲットしようとしたのも、納得だ。
なお、マサキは無精ヒゲにタラコ唇のブサイク男だった。原作の面影はなし。よく結婚できたと思う。
ミュウスリー
以前登場したミュウツーっぽいヤツは無かったことになり、きちんとミュウツーが登場した回。
マサキと奥さんもついでに再登場した。
原作や劇場版よろしくミュウの遺伝子からミュウツーが誕生するが、エスパー技を使わずに肉弾戦で戦うポケモンだった。
メガミュウツーXは、ここからインスパイアされたのかもしれない。
だが真の狂気はこれからだった。
ミュウツーの遺伝子を取り込んだピッピが、奇妙なミュウスリーになってミュウツーを圧倒するのである。
引用元:「ポケットモンスター」4巻 83P
いや、エスパー技を使えよ。
「バキッ」「ドカッ」「ドン」と力強い効果音で戦うミュウツーは、他の媒体では決して見られないだろう。
ギエピーはこれからも続く
ひとまず、穴久保幸作先生には「長い間本当にお疲れさまでした」とお伝えしたい。
月刊コロコロコミックでの連載は終了になり、男子向け漫画の第一線からは、少し離れることになる。
が、実はギエピーの連載は完全に終わるわけではない。「別冊コロコロコミック」で、連載は続くようだし、大人向けの「コロコロアニキ」にもまた載せるようだ。
コミックナタリーより
ギエピー!穴久保版ポケモンが月コロで最終回、だがピッピたちの暴走は終わらない https://natalie.mu/comic/news/351530
正直私はいい大人なので、小学生男子に特化したギエピーからは、離れてしまっていた。
でも大人向けのコロコロアニキに、今後どんな攻めた作品が載せられるのか、穴久保先生の好み全開に味付けされたかわいいポケモン女子が登場するのか、期待して待ちたい所だ。
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