ニンテンドースイッチがVRに
リリースによれば、ニンテンドースイッチもニンテンドーラボとかいう段ボールを通してVRに対応するとか。
「ついに任天堂がVRに参戦か!」とウキウキしている人もいるだろう。
が、筆者がイマイチ楽しい気分になれないのは、赤い過去の歴史を知るせいかもしれない。
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あるいは、私にとってニンテンドーラボとは、1日遊んで満足して「素晴らしい体験だった」と振り返るだけの存在になっているからかもしれない。
それはともかく、今回は任天堂がVRに挑戦した過去を振り返ってみよう。
任天堂、VRの歴史
バーチャルボーイ ~時代を先取りしすぎた~
任天堂が1995年に発売した「バーチャルボーイ」。こいつはあまりにも未来的過ぎた。
なんせ2019年になってもまだ未発達な技術であるVRを、約四半世紀前に発売したのだから。
私も「バーチャル」という単語を初めて聞いたのは、「天才てれびくん」だったと記憶しているが、2回目に聞いたのは、このバーチャルボーイだった。
双眼鏡を覗きながらプレイするという斬新なアイデアは、昨今のヘッドマウントディスプレイを先取りしていた。
マシンスペックは、CPUクロックが20MHz、RAMは1MB。画面は赤色LEDによるモノクロで、2019年の者からしたら、動いているのが信じられないレベルだろう。
なお当時の価格で、15,000円だった。
で、このバーチャルボーイ、さぞやヒットしたのかと思いたいが……そうでも無かった。
時代はプレイステーションとセガサターンだった。
PSとSSの美しいグラフィックに夢中な人は、「こんな赤くてモノクロの画面のどこに魅力が?」「双眼鏡で女子更衣室を覗いてる人みたい」と思っていたようだ。
せめて、せめて画面がカラーだったら、全く違う印象になっていたかも。
あるいは、いっそ「サマーレッスン」のようなゲームを出していれば……。
惜しいことをした。
おかげで、バーチャルボーイは国内でも世界でも売り上げは芳しくなかった。Wikipedia情報によれば、国内では15万台、世界では77万台の売り上げ。
対応ソフトは19本のみで、ハード発売からわずか半年ですべてのメーカーが撤退した。
宮本茂氏は、この結果を悪くないものと捉えていたようだが、十字ボタンや携帯ゲーム機の生みの親である故・横井軍平氏の、任天堂での最後の挑戦は物足りない結果に終わってしまった。
当時、私はゲームボーイっ子だったので、バーチャルボーイも欲しくて親にねだろうと思っていた。
だが、そこは飽きやすい子供。話題にならないアイテムなど、発売して3ヶ月もすれば、興味は失せていた。
私も画面が赤すぎるのが嫌だった。最近はブルーライトだとか言われてるが、当時は赤い色は良くないなんて風潮があったからね。
この後ゲームボーイにはポケモン赤緑という最強のソフトも出たし、その頃には、バーチャルボーイの事など記憶からすっかり消えていた。
ベタにまとめれば、バーチャルボーイは"出るのが早すぎ"た。
それは、バベルの塔が神によって崩されたようのものだった。
ニンテンドー3DS ~傑作ハードに積まれたプチVR~
バーチャルボーイが忘れられてから久しい2010年、その記憶を呼び起こすようなハードが発表された。
それがニンテンドー3DSである。
名前からも分かるように3DSは当初「3D」を売りにしていた。裸眼でも見れるというのはなかなか画期的で、まあプチVRというところか。
私や任天堂ファンの多くが、「バーチャルボーイのように売り上げ不振に陥るのでは?」と心配した。DSという完成されたハードに、3D機能を付け足す必要なんてあるのか?そんな風に考えていた。
しかも価格設定が強気の25,000円。さらに2011年初頭の発売後、日本は東日本大震災という未曽有の大災厄に襲われ、世はゲームどころではなかった。
やはり3DSはバーチャルボーイの再来か……。嫌な予感が漂う2011年半ば、3DS発売から半年で、任天堂は早くも値下げを敢行する。15,000円と、いきなり1万円も値下げしてお求めやすい価格になった。
私は既に所持していたので、いろいろ解せぬ気持ちもあったが、まあ値下げキャンペーンやらなんやらあったので、勘弁してやった。
そこからの成功はご存知の通り。ライバル・ソニーのPS VITAなど相手にならぬほど、3DSは世界を席巻した。
が、3DSが順調に売れてしばらくして、「3DSに3Dは不要なのでは?」と人々は次第に思うようになった。
2DSが発売し、おそらく最終進化版のNewニンテンドー2DS LLも発売した。
詳しくはこちら
今や3DSはサイクルの終わりを迎え、スイッチへと移行しているが、誰もスイッチに3D機能が無いことを惜しんでいる人がいない。
最近では3DSの「3」はゲシュタルト崩壊を起こし、何を意味する数なのか知らない人の方が多いだろう。
ニンテンドーラボVRキットはどうなるのか?
バーチャルボーイも3DSも、共通するのは継続できなかった、VRという文化を根付かせられなかった点では、共通している。
ではラボVRはどうか?
なんて問いかける必要もなく、ビジネスとしては大して成功しないことは分かりきっている。おそらく任天堂も分かっている。
まずラボ自体が根付いていないし、長年のライバル・ソニーのPSVRだってまるで大したことない。メインストリームにはなっていない。
HTC VIVEやオキュラスリフトだって大差ない。
まだまだVRは未来への投資であり、種まきである。「ソードアート・オンライン」や「レディプレイヤー1」のような世界は、残念だが当分先だ。
「なんか面白そうだな、やってみるか!」そんな人、特に熱意ある子供たちに向けて、新しいおもちゃを売り出したいのだろうね。バーチャルボーイのようにね。
参照:Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit(ブイアール キット)| Nintendo Labo | 任天堂
しかし顔にゾウやバズーカやトリを乗せるのは、中々に間抜けだ!
これが子供たちならまだ可愛い、で済むが、カルロス・ゴーンのような権威者がこんな恰好したらもうバカウケだろうね。
ただ、ラボはバーチャルボーイの屍を超えて、最新の「手作り」というVR体験を与えてくれるだろう。
だが、まだまだ、ラボVRも、未来のVRのための踏み台に過ぎない。
また1年後、置き場に困った段ボールを眺めて、まだ見ぬ未来の世界への思いを馳せようじゃないか。