あのポケモン(ポリゴン)ショックから21年
我々の世代は、第二次世界大戦・太平洋戦争の恐ろしさと忌々しさを散々、先人達から伝えられてきた。
伝えられ過ぎて8月6日から15日くらいまではずっと憂鬱な気分でいることを義務付けられている。
なので12月16日も、ポリゴンショックの日として若者に憂鬱な気分になってもらう。
そんな必要はないが、リアルタイムであの出来事を体験した者としては伝えなければなるまい。
あ、今日はもう12月21日か!早いね。
ポケモンが悪者にされた日
「あの日」は、まさに青天の霹靂(へきれき)だった。
「あの日」とは「でんのうせんしポリゴン」が放送された当日のことではない。その翌日だ。
小学校で、朝の会の前、クラスメイトに「何か体調に変わったことはないか?」と言われた。
私はまるで意味が分からなかったので、「なんで?」と答えた。
そしたら、「昨日ポケモンを見た人が、病院に運ばれたらしい」と言ってきた。
確か学校の先生も、その事について話題にしていた。
この時の私は、「皆なにを言っているんだ?」とそこまで気にしていなかったが、帰ってからニュースなどを見るにつれ、大ごとになっていることを次第に理解していった。
「ポケモン」そのものが終わるとさえ思った
ポケモンアニメの点滅のシーンを見ていた子供たち700人以上が、病院に運ばれたと知った。
しばらくして、ポケモンの放送休止が発表された。
そこからは地獄のような日々だった。
ワイドショーやらニュース番組では連日その話題が取り上げられ、ポケモンやアニメ自体が悪いものであるかのような報道が相次いだ。
また「マリオスタジアム」という番組があったが、アニメとは直接関係ない本家ゲームの対戦コーナーがあるからという理由で、これも放送休止になった。
紅白歌合戦にピカチュウが出る予定も、当然取りやめ。
当時「ポケモン」というコンテンツはメディアに一切露出を許されなくなった。
この頃の私が考えていたことは、「私の好きなポケモンを奪わないでくれ」という気持ちだけだった。
死者は出なかったとはいえ、アニメを見ていた700人ほどが病院に運ばれたことは大変な失態だ。それは今なら理解できる。
だがしかし、当時の私にとっては「大切なものが大人達に奪われた」という感情しかなかった。
それにちょっと前まではポケモンは空前のブームで、スーパースター扱いだった。1つの事件でこんなに扱いが変わってしまうとは、世の中の手のひら返しを受け入れられるような歳ではなかった。
おかげで反骨心が養えたのかもしれない。
私がオタクの道を歩んだのもポケモンのせい?
私は自分自身のことを「オタクではない」と事あるごとに言ってきた。
別に隠そうとかそういう訳じゃない。
何故なら、私は別に特定のジャンルにおいて、ものすごく詳しかったり、大量のグッズを持っていたり、毎回ライブに行ったり、そういう事がほとんどないからだ。
ただ、ポケモンショックの後「アニメを録画する」という習慣が根付いた。
1998年4月11日。ついにポケモンの謹慎処分が解除された。
子供にとってはあまりにも長かった4か月の時を経て、ポケモンが帰ってきたのだ。
その嬉しさを忘れぬよう、毎週アニメポケモンを録画するようになったのだ。
やがて、それはポケモンだけではなくなっていく。「おジャ魔女どれみ」や「カードキャプターさくら」、「平成仮面ライダーシリーズ」などもVHSに保存し、そして「あずまんが大王」からは深夜アニメも録画するようになった。
今ではAmazonプライムがあるので録画する頻度は減ったが、それでも何本かは録画して保存している。
その後のポケモンやアニメ業界の対応。お馴染みのテロップも……
アニメ再開した頃のポケモンは、小学生の私でもわかるほどに、点滅を抑えることに気を使っていた。
ピカチュウの「10まんボルト」のシーンのもっさり加減なんか、あからさまだった。
でもそんなことは、ポケモンが再開できた喜びに比べたら些細な出来事だった。
「アニメを見る時は部屋を明るくして1m以上離れてみてね!」
今では朝・夕方アニメではすっかり御馴染みのテロップであるが、これが出るようになったのもポリゴンショック以降だ。
また、最近のテレビアニメでも輝度(画面の明るさ)をあえて落として、光の刺激が強くなり過ぎないように配慮するシーンなどが見受けられる。
未だにアニメから"出禁"にされているポリゴン
あの忌まわしき事件から長い時間が経ち、世間の人々は「ポリゴンショック」など完全に忘れている。
幸いなことに、あの時終わるかと思ったポケモンは20年以上たっても続き、アニメも毎週楽しく放送している。
「子供に悪影響だ」と大騒ぎした評論家たちも、今ではそんなことは忘れてしまっただろう。当時の子供も今では大人だし。
だがそれでも、現在のアニメポケモンスタッフはまだ引きずっているのだ。
それが証拠に、あの回以来、ポリゴンはただの一度もTVアニメに出演を許されたことはない。
ポリゴン2やポリゴンZも同様だ。
基本的に全種が何らかの形で登場するというスタンスをとっているアニメポケモンにおいて、これは異様なことだ。
アニメスタッフは「ポリゴン」という名前を聞くと、どうしてもトラウマが呼び起こされ、「嫌な事件だったね……」としか思えないらしい。
ネットでは「ポリゴンはわるくない!」という言葉がある。
TVアニメにポリゴンが堂々と登場した時こそ、本当の意味で「あの事件」が終わるのだろう。
最後になるが、私もこの記事を通してアニメスタッフに呼びかけて、締めとしたい。
「もう十分な時間が過ぎた。ポリゴンをTVアニメに出してあげて欲しい」