ポケットモンスターを極める本とは
キルタイムコミュニケーション
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1997年にキルタイムコミュニケーション(以下KTC)が出版したポケモンの攻略本である。
出版社名を聞いてピンと来た方もいるだろう。
だが、99%の清廉で純真な読者は聞いたこともない会社だと信じている。KTCと言えば今ではアレなアンソロジー漫画を作っている会社だ。
だがこのブログではその話はしないので安心してほしい。ただ間違っても社名で検索してはいけない。
「今では」と言ったが、では昔のKTCは普通の一般向け書籍を出していたのかというと、そうでもない。
当時から怪しい雰囲気がプンプンする本を出していた。それもこの一冊だった。
対戦重視の一冊
1996年から1997年当時、ポケモンは社会現象と言うべき大ブームだった。インターネットも普及していなかった時代、ポケモンの攻略本や関連書籍は山のように出版されていた。
そんな状況にもかかわらず、当時は個体値や努力値などは、ライト層はもちろん相当なポケモンマニアでも存在を知りえなかった。
ポケモンによって微妙な能力差があることは知られていたが、ポケモンをたくさん倒すと能力値が上がりやすいなんて話は都市伝説の類だと思われていた。
現代では考えられないことだが、発売から1年以上が経過してもまだ情報が錯綜していたのだ。
実は公式攻略本では種族値が公開されていたのだが、子供だった私にはこの数字の具体的な意味がさっぱり分からなかった。
まあこれらの事をネタに笑い者にするのは勘弁してほしい。
何故なら、これはポケモンの黎明期の原始時代であり、それをバカにするのは、「なぜ彼らは伝聞に狼煙を使っていたんだ?スマートフォンを使えばいいのに……」と言うようなものだ。
我々の時代も遥か未来の人から見たら「なぜ彼らは移動に車や電車を使っていたんだ?ワープ装置を使えばいいのに……」と、思われるかもしれない。
また当時のポケモン攻略本は、内容はストーリー攻略やデータベースとして役立つ本のどちらかだった。イラストやゲーム画像が中心の子供でも見やすい本だ。
その中でKTCは、今とは違う意味で、言ってみれば"ちょっと大人向け"の書籍を出版することで他社との差別化を図った。
それがこの「ポケットモンスターを極める本」だった。
当時にしてもツッコミ所が多い本
この「ポケットモンスターを極める本」と大仰なタイトルをつけられ本書は、対戦を主眼に置いていた。当時としては画期的な本だった。
そして文書が占める割合が多く、小学生にはいささか読みづらい本だった。
とはいえこのブログのようにフランクな文体でユーモアを交えて書かれていたので、読めないことは無かった。
まあ、毒舌すぎる作者の論評はあまり好きでなかったが。
ただ当時にしても、ツッコミどころが多い本であった。
本の内容
本の内容を簡単にまとめると
- PT紹介
- 対戦のコツ
- ステータス集
- 袋とじ:育成のコツ
という4部構成になっている。袋とじがある辺りがさすがアレな本を出す会社だ……。
とも思うが、当時はゲーム攻略本にもビニールがなく、立ち読みが当たり前の時代だったのでこんなものをつけたのだろう。
1章:PT紹介
PT紹介に入る前に、当時のポケモンの対戦ルールが整備されていなかったことにも触れねばなるまい。
シングル6:3というルールが確立したのは、「マリオスタジアム」という任天堂監修のTV番組内のことである。
この本が出版される少し後だったはずだ。
そんなルールも定まってない時代。したがってこの本ではシングル100レベル統一6:6、使用ポケモンの制限なしの、完全無制限ルールが前提とされていた。
実際当時の対人戦では、それが当たり前という感覚の時代だった。
そこでこの本で最も推奨されていたのが、まあ……。
ミュウツー統一PTとかいう身も蓋もなさすぎるなさすぎるPTだった。
当時は今でいう”禁止伝説”はミュウツーしか存在せず、タイプもまさにエスパーの天下。
悪タイプが存在せず、虫、ゴーストにも「ミサイルばり(当時は1発の威力15)」、「したでなめる」というひどい技しかなかった時代だ。
先ほど"ちょっと大人向け"と述べたが、アレは誤りだったかもしれない。訂正する。
何故かって?ここの部分を読めば何も言うまでもないだろう。
完全に子供向けの内容である。また当時ミュウツーを除けば最強と言われていたケンタロスがこの最強リストみたいなものに入っていないのも残念な点だ。
作者はミュウツー統一PTが最強と認めながらも、様々なタイプ統一PTなど、エンターテイメント性の溢れるPTを紹介している。
例:タイプ統一、伝説統一、メタモン統一、ゲンガー統一、御三家&ブイズ。
実戦的ではないが、使っていて楽しそうなPTもある。使ったことは一度もないのであくまで推測だが。
2章:対戦のススメ
この本の中で一番まともな章であり、当時ここまで踏み込んで解説していた本はなかったはずだ。
「強いポケモンをあとにとっておくのは正しいコトなのか?」(61P)
という見出しの所にはこう書かれている。
「いいトコなしで、簡単に倒されてしまうほうがよっぽどかわいそうである。ポケモンにはそれぞれ役割がある。その役割を十分に果たせるように使ってやるのが、一流のトレーナーなのだ」(61P)
驚いたことに、当時すでに「役割」という言葉を使っていて、その重要性についても言及していた。
この点は画期的なポイントだと言える。KTCは侮れない。
「技の優劣が勝敗を決める」(P64)
の所でも、
「ここ一番ではずれる攻撃ほど信用できないものはないからだ。諸君も『かみなり』とか『ハイドロポンプ』で味わったことがあるだろう。」(P64)
などと書かれており、現代のトレーナーと同じ感覚を20年前の人が感じていたことが分かる。
3章:ポケモンデータルーム
残念ながらこの書のデータベースは一番あてにならないところだった。
こういうデータベースは他の本で既にたくさん出ていたからだ。
各ポケモンについての一言メモのようなページは、今見ると毒舌で笑えるが。
真面目な小学生だった当時の私には不快だったと記憶している。
「各ポケモンの能力値ランキング」 というコーナーもある。
が、これがレベル100にした時の実数値を比較するというものであった。
当然のこととは言え、作者は三値を知らなかったのだ。当時は大変だったのだなあ、と思う。
例えばミュウツーの素早さについては、以下のように述べている。
「ミュウツーに関しては経験上、もっと上位に入ってきてもよい気がするのだが…。」(P80)
と、ミュウツー(S130)がフーディン(S120)やダグトリオ(S120)より素早さが低いことに疑問を呈していたようだ。
まあこの作者の経験は正しい。たまたまSが低いミュウツーだったか、努力値が足りなかったのだろう。
理想個体が当たり前になった今、こんな記事をドヤ顔で書いたら失笑されるだけだが、当時にしては頑張っていた方だ。
例えるなら、現代のポケモントレーナーは戦車や戦闘機の扱い方を学んでいるが、この作者はそんなものがない時代、一生懸命に磨製石器の槍を研いでいたのだ。
あとは「とくしゅ」(現在でいうとくこう・とくぼうが一つになっていたステータス) に関しても未知のエリアだった。
まあ高い方がいいのだろうが、具体的に何がいいのかさっぱりわからなかった人が大半だった。初代しかやってない人は、今だになんの数値なのか知らない人もいるかも。
この本には「とくしゅ」についてこう記されていた。
「やはり『とくしゅ』はポケモンの強さを決めている重要な項目なのかもしれない」(P80)
つまり、何だかよくわからなかったようだ。
「物理攻撃」と「特殊攻撃」の存在すら、当時のプレイヤーは知らなかった。こんな当たり前のことでさえ、公式の秘密主義により、当時の我々はよく知らなかったのだ。